UpToDate "慢性非癌性疼痛治療の概要" 簡約
Introduction
プライマリ・ケア患者の20-50%が慢性疼痛を訴えている。
Approach to the patient
慢性疼痛への対処法は大きく分けると6つである。薬剤、理学療法、行動医学、neuromodulation, interventional, 外科療法。最適な治療のためには異なる専門家のチームが協力する必要がある。
現在の治療成果の平均は疼痛を30%軽減する程度であるが、これでも患者のQOLの改善には大きく寄与する。
Pharmacologic options
異なる経路を狙った複数の薬剤を使用することで鎮痛効果を高め、副作用を減らすことができる。しかし、組み合わせ方に関する研究は少ない。
うつ病と慢性疼痛は合併することが多い。
慢性疼痛への対処法の多くが、癌性疼痛に対する治療経験から来ている。WHOの疼痛ラダーはevidence-basedとは見なされないが、広く用いられている。
Choice of therapy by type of pain
神経性疼痛は糖尿病、帯状疱疹、脳梗塞などから起こる。侵害受容性疼痛は筋骨格系、炎症、機械的問題などから起こる。
1.神経性疼痛
まずは診断をつけて、圧迫や薬剤が原因であればそれを除くことが重要である。
下記のアルゴリズムにしたがって処方していく。
単剤で効果がる患者は半数以下なので複数の薬剤を併用する必要があるが、その効果や合併症に関してのエビデンスは乏しい。
エビデンスが限られているために、神経性疼痛治療に対する具体的な薬剤推奨はガイドラインによって異なっている。ほとんどの研究が特定の疾患に対する単剤の比較である。薬剤同士の比較研究はほとんどなく、痛みへの反応率の比較で薬剤を検討するしかない。また、観察期間が短いため、慢性疼痛に反映できるとは言えない。
しかしながら、薬剤選択に関して一般的な同意はある。Caチャンネルα2δ結合体(gabapentin or pregabalin)もしくは三環系抗うつ薬が1st-lineである。SNRIsは三環系抗うつ薬より適しているかもしれないが、1stか2ndに位置づけられる。三環系抗うつ薬では副作用の観点から第2世代が好まれる。
2.侵害受容性疼痛
変形性関節症や慢性腰痛に対してはacetaminophenが1st-lineである。しかし、acetaminophenはNSAIDsより効果が弱く、4g/day以上では肝障害の危険性がある。
次の1st-lineはNSAIDsである。オピオイドは乱用の可能性が低く、非オピオイド鎮痛薬および抗鬱薬内服後でも疼痛が持続している患者にのみ用いられる。長期的なオピオイドの使用が疼痛を緩和し、機能的予後を改善するというエビデンスはほとんどなく、容量の増加がオーバードーズの危険性を上げることに留意する必要がある。
Nonopioid analgesics
1.Acetaminophen
acetaminophenの鎮痛効果が未解明で、NSAIDsに比べて抗炎症作用に乏しい。
acetaminophenはオピオイドの使用量を減らすために併用される。しかし、合剤はacetaminophenの高容量時の毒性のために使用量設定が難しい。アメリカでは325mg以上含有している薬剤は市場からなくなった。
治療量でも肝障害を起こす恐れはある。無症候性のaminotransferaseの上昇を起こすことあるが、これは急性肝障害のリスクを上げるわけではないようだ。
安全量は4gとされるが、諸説あり、いくつかのメーカは3g程度に設定している。重度の肝障害やアルコール依存者では2g以下が無難である。
他にあり得る合併症はCKD,HT,消化管潰瘍である。
2.NSAIDs
システマティックレビュー研究(Spine 2008)ではNSAIDsの効果と多くの合併症が示されたが、acetaminophenに対する優位性は示していない。アメリカ老年医学会などではNSAIDsの使用を可能な限り控えるよう推奨している。局所的な痛みには局所鎮痛剤を推奨している。
システマティックレビュー研究(Clin Drug Investig. 2010)ではCOX2阻害薬はNSAIDsと同様の鎮痛効果があり、消化管障害は少ないとした 。Celecoxibは200mg以上では心血管イベント増大のリスクがある。
NSAIDsの種類はたくさんあるが、どれか一つが優れているというエビデンスはほとんどない。
血小板凝集の妨害、消化管障害、腎障害、アスピリンやワーファリンの効果の妨害などの副作用がある。
Anticovulsants
gabapentin & pregabalin (主にpregabalinに関してのみ 他の抗てんかん薬などは省略)
Caα2δ受容体に結合して神経伝達物質の放出を阻害する。プレガバリンはBBBを通過するGABAアナログとして作られた。gabapentinより即効性が高い。
2019年のシステマティックレビュー(Cochrane Database Syst Rev. 2019)で帯状疱疹や糖尿病性神経障害で300mg-600mgの容量でのプラセボに対する優位性が認められた。反応率は中枢性神経疼痛や線維筋痛症では低かった。
用量依存性のめまいや鎮静作用があるが、低用量から初めてゆっくりと増量することで減らすことができる。
Antidepressants(主にduloxetine”サインバルタ”に関して)
三環系抗うつ薬とSNRIsは鎮痛作用があり、SSRIsはエビデンスに乏しい。
抗鬱作用とは別に鎮痛効果がある。なぜなら効果の出現が早く、低用量でも効果があり、鬱のない患者でも効果があるからである。
duloxetine(サインバルタ)
duloxetineは糖尿病性神経障害、線維筋痛症、慢性腰痛と変形性関節症に効果がある。
6つのシステマティックレビューでduloxetine60mgの効果が示されている。
副作用は嘔気、口腔内乾燥、不眠症、眠気、下痢、疲労感、めまいである。30mgから開始し1週間後に60mgに増量することで副作用を減らせる。重度の肝腎障害の患者では控えるべきである。休薬するときは離脱症状を防ぐために徐々に漸減することが推奨される。
うつ病の合併
うつ病の軽快で慢性疼痛が軽快するし、慢性疼痛の軽快でうつ病も軽快する。
Adjubant medications 省略
Opioids "Use of opioids in the management of chronic non-cancer pain"
Nonpharmacologic therapies 省略
Summary
- 慢性疼痛へのアプローチは複数あり、上手く組み合わせる必要がある。
- 疼痛の種類でアプローチを変える必要がある。特に神経性疼痛と侵害受容性疼痛とを。神経性疼痛には抗鬱薬、pregabalin or gabapentin、局所鎮痛。オピオイドとトラマールは2ndライン。侵害受容性疼痛には非麻薬性およびオピオイド鎮痛薬。
- 非麻薬性鎮痛薬にはacetaminophen, NSAIDs, COX2阻害薬がある。Acetaminophenは膝と股関節の変形性関節症にはNSAIDsに比べて効果が弱く、高用量では肝障害を起こす。NSAIDsは可能な限り高齢者には使うべきでない。
- Gabapentinは帯状疱疹や糖尿病性神経障害に効果的である。Pregabalinはgabapentinより即効性があるが、多幸感を引き起こす。
- TCAsとSNRIsは鎮痛効果があるが、SSRIの効果に関するエビデンスは乏しい。
- 急性疼痛やがん性疼痛に対するオピオイドの役割は確率されているが、非癌性慢性疼痛に対しては意見が分かれる。
*日本の整形外科臨床上で重要度が低いと思ったものは省略してあります。
参考文献
- Up to date "Overview of the treatment of chronic non-cancer pain"last updated: Feb 05, 2019.